「お勧めの書」by にしだ わたる
Last updated 2002-10-09

お勧めの書について

このコーナーでは、優れた内容と明快な文章を備えた書籍や文書を紹介します。コンピューターに関わる人口が増えるにつれ、関連書籍や専門誌、オンライン文書の数も指数関数的に増えつつありますが、その内容はまさに「玉石混淆」。私達に与えられた時間には限りがありますので、この中からいかに効率良く「玉」を選び出すかが問題です。良書の選択基準は人それぞれですが、私の場合は内容に加え Comfortable English / Comfortable Japanese に重きを置いています。

書籍の限界について NEW

最初にお断りしておかなければならないことがあります。水を差すようで恐縮ですが、「完璧な書籍」などというものは、おそらくこの世には存在しません。私自身、連載記事を執筆する場合には、長い間下調べを行った上で「これがベスト」と思われる状態で入稿しているのですが、その内容には浮き沈みがあります。面白い箇所もあれば、そうでない部分もあるでしょう。開き直る訳では決してありませんが、読者の方々には自分の目的に応じて情報を適宜取捨選択して頂ければと思います。

書籍も同様で、全ページに情報が詰まっている作品に私はこれまで出会ったことがありません。若い頃は、本は最初の1ページから最後の1ページに至るまで丁寧に読むべし、という脅迫観念にも似た考えを持っていたのですが、誰もこの読み方が間違っているとは教えてくれませんでした。

本当に大切なことは教科書に書かれていない
著者に読まされてはいけない、書籍は自分主体で読むものである

このふたつの真実に自力で辿り着いたのは、30歳も過ぎた頃だったように思います。以後、書籍やオンライン文書から情報を入手する際の効率は飛躍的に高まりました。高いお金をかけてアメリカから原書を入手しても、全く役立たない本もあれば、1/3程度は読むに値する本もありましたし、数百ページのうちわずか一行に価値があった本もありました。けれど、たとえ一行分の情報しか得られなくとも、その本は私にとってまぎれもなく良書です。

たった一行の情報をきっかけとして、それまでは点に過ぎなかった複数の情報が一挙に頭の中で整理され、ひとつの美しい風景へと変化することを、これまで繰り返し体験してきたからです。

お勧めの書で紹介する書籍群は、これまで私が山ほど購入してきたものの中で光り輝いているものばかりです。しかし、それらはあくまでも原石に過ぎません。普通の石ころに過ぎない部分もありますし、美しい光を放つ結晶が埋め込まれている部分もあります。興味のある原石があれば、自分の手に取り自分の目で評価を下してみてください。このトレーニングを続けていけば、やがてはあなただけの鉱脈を発見することができるでしょう。

Amazon アソシエイト・プログラム

これまで、書籍のリンク先は出版元もしくは原著者のページのものを使用していました。ところが、下記を読んで頂ければお分かりの通り、私が紹介する書籍は片っ端から絶版の憂き目に合っています。今日私が入手出来たとしても、明日店頭で売られているかどうかは、誰にも分からないのです。

そのような出版物の変化を敏感に捉えるという意味で、Amazon のシステムは大変優れていると思います。目的の書籍がどのような状況にあるのか、瞬時に知ることができるからです。また、最近感心させられたのは、amazon.com で行われている「古書の紹介サービス」です。先日このサービスを利用することで、既に絶版になった Small-C の原著を手配することができました。行き届いたサービスに感謝すると共に、書籍を大事にする同社の精神とこれを支える米国の文化に大いに共鳴した次第です。

ということで、以前は敢えて選択しなかった Amazon アソシエイトプログラムに参加することにしました。一体どれくらいの紹介料が入るのかは知りませんが、「次の良書」紹介のための軍資金として活用させて頂きます(焼け石に水という気もしますが・・)。何かご不便な点がありましたら、ご連絡ください。

これまでに紹介した書籍一覧

Linux Firewalls (1st Ed.) by Robert L. Ziegler (1st ed. 1999) 2001/12/15
80386プログラミング by Crawford JH and Gelsinger PP (翻訳 岩谷宏)、工学社(初版1988) 2002/01/16
はじめて読む486 by 蒲地輝尚、アスキー出版 (初版1994) 2002/01/16
Linux Device Drivers 2nd Ed. by A.Rubini andJ.Corbet、O'REILLY (2nd Ed. 2001) 2002/01/30
login:UNIX C システムプログラミング入門 by 河野 清尊、オーム社(初版1992) 2002/01/30
Advanced Programming in the UNIX Environment by W. Richard Stevens、Addison Wesley (初版1993) 2002/02/19

新着書籍 NEW

今回は PC-AT アーキテクチャを理解する上で必須の書籍を紹介します。GCC プログラミング工房の執筆を通じて良く分かったのですが、日本語書籍だけで PC-AT の最深部を理解することは不可能のようです。2002/10/8

The Undocumented PC: A Programmer's Guide to I/O, CPUs, and Fixed Memory Areas (2nd Edition) by Frank Van Gilluwe、Addison Wesley 2002/10/08

GCC プログラミング工房の読者の方々の中には、将来自分の手でオリジナルのOSを作り上げてみたいという夢を抱いている方もいらっしゃるでしょう。

かく言う私もその一人なのですが、この目的のためには PC-AT アーキテクチャにおけるハードウェア仕様をすみずみまで把握する必要があります。一般的にカーネル作成のためには x86 CPU 本体を理解することが本道のように言われていますが、私の経験では CPU よりも周辺 I/O の理解が遙かに大切です。

具体的にマスターすべき周辺LSIを挙げてみますと、プログラマブルタイマー、割り込み制御コントローラー、DMAコントローラー、キーボードコントローラー、フロッピーディスクコントローラー、VGAカード、などなど際限なく続きます。

カーネルを書き上げるためには、これら全ての周辺LSIを縦横無尽に使いこなす能力が求められます。しかし・・、日本語で出版されている書籍でこれらの情報を十二分に網羅しているものは、ほとんどありません。前回紹介した書籍群は数少ない日本語資料ですが、それでもいざコーディングを始めて見ると、情報が決定的に足りないことに愕然とさせられます。

The Undocumented PC は、ビデオ・非同期通信・フロッピーディスクなどのデバイス毎に章を設け、さらにその内部で BIOS レベルおよび LSI レベルでの制御方法を詳細に解説しています。例えば、キーボードコントローラーが持つコマンドバイトの全貌は、本書を読めば把握できます。章末には丁寧にサンプルコードも添付されていますので、理解は一層深まることでしょう。

但し、本書と言えども万能ではありません。細部に渡る情報を入手することは出来ますが、全体像を把握するためには説明が不足している部分が多々あります。最終ゴールに達するためには、既に紹介した日本語書籍や、次に述べる Personal Computer from the Inside Out などを総動員した上で、自分の頭の中に解を導き出す必要があることを申し添えておきます。

それにしてもいつも思うのですが、「なぜ日本では重要な基本技術に関する解説書が出版されない」のでしょう?The Undocumented PC を小脇に抱えて「OS講義」に通う米国の学生と、安直なテキストで授業を受ける日本の学生の間に歴然とした力の差が生じることは、当然と言えます。「最近の学生は・・」と無責任に吐き捨てる人は多いですが、教えるべきことを教えていない私達に、果たしてそれだけの資格があるのでしょうか?

Personal Computer from the Inside Out: The Programmer's Guide to Low-Level PC Hardware and Software (3rd Edition) by Murray Sargent & Richard L. Shoemaker、Addison Wesley 2002/10/08

本書の内容はやや古いのですが、The Undocumented PC が BIOS などのソフトウェア仕様に重点を置いているのに対して、ハードウェアそのものに焦点を当てていることが特徴です。

キーボードのハードウェア構造や、ビデオディスプレイの構造、果てはLSIそのものの解説から、ステッピングモーターに至るまで取り上げられています。

直接得られる情報は一見少ないようにも思えますが、基本をハードウェアレベルから理解するために必須の知識が、丁寧に述べられています(文章はやや冗長ですので、斜め読みしてください)。The Undocumented PC と併せて読み進めることで、PC-AT の理解はより深まることでしょう。

繰り返しますが、私はここに挙げた書籍を次々と読破することを皆さんに勧めている訳ではありません。一冊一冊の書籍はすべて不完全です。決して原著者の言いなりに読み進め、フンフンと納得してはなりません。「まだまだ自分の知識は曖昧だ」と感じる心が大切なのです。そして、納得できない時には情報探索の努力を惜しんではなりません。最初はなかなか辛いものですが、ひとたび「点在する」情報群を「線や面」に再構築できると、視界はガラリと変わることでしょう。

プログラミングの力を生み出す本(インテルCPUのGNUユーザへ) by 橋本洋志 他、オーム社出版局 (第二版 2000) 2002/08/29

この本は東京へ出張した折りに、秋葉原の本屋の片隅で見つけました。細い背中に刻まれた何とも奇妙なタイトルが気になったからです。「けったいなタイトルの本やな〜」と訝しげに中身を見て、二度ビックリ。「これは買いじゃ!」と速攻カウンターへ小走り・・。

ここ数年間手に取ってきたプログラミング書籍の中で、私を唸らした唯一の書籍です。東京工科大学工学部の先生方が共同執筆されていますが、従来の大学講義用テキストからは想像もできないような斬新で面白い内容に仕上がっています。

サブタイトルから想像できる通り、本書は巷にゴロゴロしているような Windows ベースのテキストではなく、PC-UNIX 上における GNU 開発環境をワークベンチとしたプログラミング書です。GCC だけを取り上げているのならまだ「可愛い」のですが、驚くべきことに gas によるアセンブリコード記述、gdb によるデバッグ方法まで解説されています。

さらには、Cソースと GCC が出力したアセンブリソースを比較することで、条件文や for/next がどのような機械語に置換されているのか、逐一照らし合わせて確認しています。凄い、凄すぎます!しかも、全体が200ページ未満と大変コンパクト、冗長性がありません。大したものです。

惜しむらくは、高度な内容の割りには、題材として取り上げられているプログラミングテーマが凡庸すぎます。学生がワクワクするような UNIX システムプログラミングを中心としたテーマであれば、全体の雰囲気はもっと締まったものに仕上がっていたことでしょう。基礎理論と応用の各レベルが乖離しているように思います。

ともあれ、GCC プログラミング工房を読んで面白いと思われる方であれば、本書にも魅力を感じられること間違いありません。中でも第7章および付録Bは gas における AT&T 文法を詳細かつ系統的に解説しており、このふたつを読むためだけに2500円を払ったとしても十分お釣りが帰ってきます。

このような優れた書籍が次から次へと生まれ、学校や企業研修の講義で使われるようになれば、日本の情報教育環境も様変わりすることでしょう。東京工科大学工学部の先生方に心より敬意を表します(本書は和文書籍中、現時点で最高評価)。

CプログラマのためのC++入門 by 柴田望洋、ソフトバンク (初版1994) 2002/08/29

私自身はこれまで C++ を用いて大規模プログラムを作成した経験はありません。ただ、興味はありましたので、本書や下記に紹介している「C++ Cプログラマのための実践ガイド」、そして 「Greenleaf 社 RS-232C 通信ドライバーのソースリスト」を何度も読み直しつつ、ウィンドウシステムやシステムツールのコーディングを通して勉強したものです。

中でも、本書は C++ の文法とその「意味」を調べる際、大変参考になりました。C++ の文法について述べた書籍は山ほどありますが、新しい機能がどのような背景で実装されたのか、C との違いはどこにあるのか、などについて述べた本はほとんどありません。

本書は C と比較することで C++ 言語の魅力を引き出し、なおかつその正しい理解を促すことに成功した、非常に独創性の高い本です。

ただ難点もいくつかあります。他の教科書には書かれていない、大変重要なことがあちこちに書かれているのですが、強調されていないためうっかりすると見落としてしまいます。私は一を聞いて十を知るようなタイプではありませんので、数え切れないほど本書を読み返すことになりました。もう少し焦点を絞り込み、枝葉を削ぎ落として解説する必要があると思います。

また、最大の難点はプログラムの題材が面白くないこと。C++ の教科書を見ていると、必ずと言ってよいほど「テストの点数クラス」、「住所録」、果ては「複素数」が出てきます。中高とテスト・トラウマのある私には、前者のテーマなど見たくもありませんし、複素数などは雲の上のような話で馬の耳に念仏状態であります。「そりゃ、読者のあんたのレベルが低いのだ」と言われると反論できませんが、果たしてそうでしょうか?

次に紹介する「C++ Cプログラマのための実践ガイド」は、私に C++ プログラミングへの猛烈なイマジネーションを喚起させてくれました。

C++ Cプログラマのための実践ガイド by Sharam Hekmatpour (訳 岩谷宏)、ソフトバンク (初版1990 絶版?) 2002/08/29

本書は全13章のうち、9章までを C++ 言語の解説に割いており、残り4章を実践プログラミングにあてています。文法解説部分は大したことはないのですが、最後の12/13章で解説されている「ユーザーインターフェースマネージャー」および「ワードプロセッサ」がとてつもなく良い出来です。

ユーザーインターフェースマネージャーでは、Terminal/Window/Menu/Form クラスをデザインし、C++ ならではの手法でウィンドウマネージャーを構築します。ワードプロセッサでは、Line/Text/Ruler/Buffer/Script/Grid/Table/Paragraph クラスを多重継承を駆使しながら設計することで、 ワープロを作り上げます。

何れも完動するコードが提示されている訳ではないのですが、ソースを追っていくだけで「なるほど C++ はこう使うのか」と身を持って理解することができます。若かりし頃、12章で解説されているテキストベース・ウィンドウマネージャーをドキドキしながら読み進め、さらに自分流に改良・発展させてコーディングした覚えがあります。

本書を読んだ後では、他の C++ 教科書で扱われている題材が、まるで中学高校の英語テキストのように味気なく感じられることでしょう。コーディング力の育成にあたっては、センスあるプログラマーの手になるソースリストにあたることが肝要です。ちなみに本書を翻訳するとは、岩谷氏の選球眼は本物です。が、残念なことに絶版の模様・・涙。

Greenleaf Comm++ Library 、Greenleaf Software (Ver 2.0 1993) 2002/08/29

本書は一般書籍ではありません。知る人ぞ知る、Greenleaf Software というソフトウェア会社が販売していたライブラリー Comm++ v2.0 の添付マニュアルです。

Greenleaf Software は、MS-DOS 時代に極めて高品質のライブラリーを「ソース付き」で提供することで有名でした。中でも、RS-232C 通信用ライブラリーの完成度は極めて高く、世界的高評価を得ていました。

私が最初に Greenleaf に出会ったのは、クロードチアリ氏にC言語版の通信ライブラリーを紹介された際のことです。

当時は通信ソフト SKYFREE はまだ誕生していなかったと思いますが、氏の自宅で「アメリカではこんなライブラリーが売られているよ」と見せて(&コピー)頂いた場面を覚えています。早速愛媛に帰り、ダンプリストを打ち出し解読作業に入りました。

すると・・、それまで見たこともなかったような通信LSI(8250)の制御ノウハウが満載されているではありませんか。しかも、コードが極めて堅牢。たとえ通信途中にモデムケーブルが抜け落ちたり、モデムの電源が落ちるようなことがあっても、決してシステムをハングアップさせないための工夫が随所に凝らしてありました。「これがプロフェッショナルが書く通信ドライバーなのか!」と、カルチャーショックを受けたものです。

以後、Greenleaf のライブラリーからノウハウの全てを吸収し、その知識を NEC PC-9801 に応用することで SKYTALK / SKYFREE は誕生しました。私は「コードの堅牢性」をこのライブラリーソースから学び、また「動きはするけれど簡単にハングアップしてしまうプログラム」と「ユーザーが安心して使えるプログラム」の間には厳然たるプログラマーの技術差が存在することを知ったのです。

大学卒業後プログラミングからは遠ざかっていたのですが、ふとしたことで Greenleaf 社が新しく C++ 版の通信ライブラリーを販売していることを知りました。当時は C++ の勉強を始めたところで「生きた C++ ソース」を求めて探し回っていたところでしたので、速攻注文。

届けられたパッケージには全ソースリストが収められたフロッピーディスクと、数百ページにも及ぶリファレンスマニュアルが納められていました。学生時代に戻った気分で、ワクワクしながら全リストをプリントアウト&解読。すると、今度は「これぞ C++ の生きる道」と言わんばかりの、見事なクラス構築を発見します。

例えば、モデム間でのファイル転送には XMODEM / YMODEM / ZMODEM という一連のファミリープロトコルが使われますが、これらは基本部分は同一で細かい点で仕様が異なっています。従来のC言語ではプロトコル毎にコーディングしていた訳ですが、Greenleaf のプログラマーはこの3つのプロトコルをクラスで統一化してしまったのです。何というアイデア!

さらに、このライブラリーの中には通信の際に用いる TTY / VT52 / VT100 / ANSI 画面制御ライブラリーも含まれているのですが、この端末・ウィンドウ制御もまたクラスで見事にまとめられています。しかもコードは堅牢です。

残念ながら、Greenleaf Software は解散したようです。これから先、果たして Comm++ を超えるような C++ ソースに私は出会うことができるのでしょうか?

はじめて読む8086 by 蒲池輝尚、アスキー出版局 (初版1987) 2002/08/25

本書は名著「はじめて読む486」を執筆されている蒲池氏の作品です。蒲池さんも、この頃はまだ駆け出しだったようで、村瀬氏が監修されています。

MS-DOS の DEBUG.COM を用いながら、機械語初学者でも理解できるよう構成が練られています。使われている図も最大限に工夫され、分かりやすいものに仕上がっているあたりは、さすがです。機械語の教科書にありがちな無味乾燥なプログラム例も目立たず、好感が持てます。

ただ極めて残念なことに、オペコード・オペランドモード・ビットフィールド・実行クロック数などに関する資料が添付されていません(「はじめて読む486」もそうです)。初学者をいたずらに混乱させないようにという配慮と思われますが、「8086を骨までしゃぶりたい」という人は、これでは物足りないでしょう。

8086 逆アセンブラー/アセンブラーを自作したい方、人間アセンブラーとなって機械語の全てを理解したい方々は、別途インターネットから8086互換CPUのPDFをダウンロードするか、古本屋もしくは図書館で次に紹介するような書籍を入手・コピーする必要があります。

ちなみに Amazon では取り寄せ可能なのですが、本家の ASCII 出版のサイトで検索するとなぜかデータベースに登録されていません。う〜〜ん、嫌な予感。お持ちでない方は、絶版の憂き目に合わないうちにゲットしておきましょう。

マイクロコンピュータ 8086/8088/8087 (I) by 大原茂之、エレクトロニクスダイジェクト (初版1982 絶版) 2002/08/25

絶版となって久しい書籍ですが、私が最も愛する8086解説書であると同時に、私に8086の知識を授けてくれた「師」でもあります(ボロボロの装丁が物語ってます)。

中身は「必要なことは全て記述され、余計な事は一切書かれてない」という玄人指向の内容。各命令には見開き2ページが使われ、右ページには理解を助けるために工夫された図が用意されています。この図は今読んでも実に出来が良く、20年前に大原氏が費やした努力と時間は相当のものであったことを伺わせます。

このような「自分の言葉と図」で語れる書籍に出会えたことに、深く感謝します。

トランジスタ技術SPECIAL No.10 IBM PC&80286 の全て CQ出版 (初版19xx 絶版) 2002/08/25

さて、8086 リアルモードプログラミングに関しては上に紹介したような書籍を読み込めば、マスターすることが出来ます。しかし・・、それだけでオリジナルDOSを作成することは可能なのでしょうか?

これは残念ながら不可能です。OSを設計するためにはCPUの知識だけでなく、標的アーキテクチャで使用されている各種周辺制御LSIに関する詳細な知識が必要になります。例えば、割り込み処理、DMAコントローラー、プログラムタイマー、キーボード入出力、画面出力、RS-232C、ディスクコントローラーなどの制御LSIです。

言われてみれば「そんなの当たり前じゃん!」という話なのですが、この事実を教える指導者は日本では数少ないようです。

教えてくれる人がいないのであれば、例によって独学する必要がある訳ですが、ここで大問題が発生。PC-AT アーキテクチャや PC-9801 アーキテクチャについて解説している日本語書籍が、軒並み絶版になっているのです。「IBM PC & 80286 のすべて」もそのひとつですが、本書は IBM PC-XT/AT のハードウェア構造を分かりやすく概観(各論は詳細ではありません)した、貴重な書籍です。具体的なコーディング例までは解説されていませんが、ハードウェアに関する資料価値は大です。

トランジスタ技術SPECIAL No.45 PC98 シリーズのハードとソフト CQ出版 (初版19xx 絶版) 2002/08/25

タイトル通り、本書は往年の名機 NEC PC-9801 をハードウェアおよびソフトウェアの2面から解説した書籍です。比較的新しい出版物だったのですが、残念なことに絶版となってしまいました。

この本の特徴は、ハードウェア仕様を解説した後に、短い制御プログラムが紹介されている点です。上で紹介した「IBM PC & 80286 のすべて」のようにハードウェアを主体に解説した書籍は、これまで数多く出版されているのですが、具体的なコーディング例まで添付されたものは、滅多にありません。

NEC PC は IBM PC を模倣したものなので、細かいポート番号などは異なるものの、全体的な構成はよく似ています。ですから、本書は IBM PC のハードウェア制御においても、非常に参考になる資料価値を持っているという訳です。古本屋や図書館で見つけたら、是非ゲットしてください。

THE IBM PC&PS/2 プログラマーズガイド by P. Norton and R. Wilton (翻訳 SE編集部), 翔泳社 (初版1989 絶版) 2002/08/25

若かりし頃の Peter Norton 氏(表紙人物)が執筆した、IBM PC に関するプログラミング解説書。Norton Commander などで世界を代表する MS-DOS Programmer となった Norton 氏は、プログラミングだけでなく執筆でもその才能を存分に発揮しました。

DOS 時代の「コーディングして書ける」プログラマー兼ライターは、私が知る限り Norton 氏ぐらいしかいません。希有な才能の持ち主と言えるでしょう。

氏のプログラムはどれも小粋で工夫に富んだものばかりでしたが、本書もハードウェア情報が上手にまとめられ、制御方法が詳細に述べられています。特にビデオ・ディスク回りの解説は秀逸であり、本書以外ではなかなか得難い情報が満載です。この作品も古本屋もしくは図書館で発見したら、即ゲット/コピー!

標準 MS-DOS ハンドブック by アスキー出版局編集 (初版1984 絶版) 2002/08/25

いわゆる「黒本」として知られた MS-DOS の技術解説書。前半はごく一般的なコマンド解説ですが、後半から一気にレベルを増して MS-DOS の内部構造解析に移行します。

具体的には MS-DOS のブートプロセス、プログラム実行舞台裏、デバイスドライバー、FAT ファイルシステム、などについて解説されています。最後の章では、各ファンクションコールについて例題プログラムを交えながら、説明しています。

以上より、読む価値があるのは中盤の内部構造解析です。FreeDOS をいじり倒したい、もしくは自分オリジナルのDOSを作りたい、という方々にはこれまた見逃せない一品と言えるでしょう。

トランジスタ技術スペシャル パソコン周辺インターフェースのすべて by CQ出版社 (初版19xx-19xx) 2002/08/25


No.63 パソコン周辺インターフェースのすべて

No.67 パソコン周辺機器インターフェースII

No.72 パソコン周辺インターフェースのすべてIII

栄光あるトランジスタ技術スペシャルシリーズが世に送り出した「パソコン周辺インターフェース3部作」です。PC-AT を構成している様々な技術仕様(PCI/ATA/USB/画像ファイル形式/PCMCIA などなど盛りだくさん)について、コンパクトにまとめられています。誌面に限りがあるため詳細には述べられていませんが、本書を最初に読むことで各技術の全体像を容易に把握することが出来ます。

私の体験談をひとつご紹介しましょう。先日USBについて勉強するために TECHI シリーズの「USB ハード&ソフト開発のすべて」を購入したのですが、イントロを読んでもチンプンカンプン。これはいかんわ・・ということで、No.63 の USB の章を読むとスッと大まかに捉えることが出来ました。ライターさんにもよるのでしょうが、簡潔かつツボが押さえてある、とても良い記事でした。

なお、この3冊は入手可能です。しかし、No.63 はなぜか Amazon では取り寄せ不能。絶版警報が鳴っているような気がします。

パソコンのレガシィI/O活用大全 by CQ出版社 (初版19xx) 2002/08/25

本書の副題「割り込みとDMAからシリアル/パラレル・ポート,FDD/IDEインターフェースまで」が示す通り、数あるPC周辺機器の中でも最も重要な役者達全てのハードウェア資料がまとめられている、極めて資料価値の高い本です。

制御プログラムが 3.5 インチフロッピーで添付されていますが、おまけ程度と考えた方が無難です。数あるLSIの仕様を1冊で閲覧できるだけでも、十分お釣りが帰ってくることでしょう。

8086リアルモードとPCハードを制覇したい方は、はじめて読む8086と併せて MUST BUY の一品です。タイトルからして近い将来絶版が予想されますので(CQ出版さんごめんなさい)、本書も今のうちに入手しておきましょう。

Wataru's review その後

他に優先すべきテーマが山積みされて来ましたので、「お勧めできない書」についてはお休みとします。

Your SysOp is Wataru Nishida , M.D., Ph.D.